舌下免疫療法とは、少量のアレルギー物質(スギ花粉、ダニ)などを毎日服用し、少しずつ体をアレルギー物質に慣らしていく治療です。
歴史は古く以前から注射を利用した、皮下免疫療法は実施されておりましたが、日本で内服の投薬による舌下免疫療法が始まったのは2014年からです。欧米では内服、点鼻など様々な投与方法で行われてきましたが、副作用のリスクを懸念し日本では行われてきませんでした。
しかし、適切に使用すれば安全性が高く効果も十分に得られることから、日本のクリニックでも開始されました。
「舌下」というのは舌の下に入れて、溶かして飲む服用方法です。 しばらく舌の下に錠剤を含んでから飲み込みます。毎日服用を続け、最低でも3年間継続していただきますが、その後効果が確認できれば、終了します。
継続して1年中内服を継続しなければならない、ハウスダストアレルギーの方や花粉症症状がひどく毎年つらい症状がアレルギー薬を投与しても改善しない方は検討する必要があります。
2022年現在、次の症状の治療薬があります。
スギ花粉症(薬品名「シダキュア」)
ダニ抗原によるアレルギー性鼻炎(薬品名「アシテア」および「ミティキュア」)
※スギ、ダニ両方の治療を、時期をずらしてスタートさせることで並行して行うことも可能です。
3年間継続した結果、治療効果がある人は80%程度で、症状がほぼでなくなる方は20%程度です。効果のない方も20%程度おりますが、他のアレルギーをお持ちであったり、環境的な要因が原因となっている場合もあり、効果には個人差があります。
適切に、適応かどうかを判断し、始めることが重要です。ご希望されても、効果が十分でない可能性があれば、お勧めしない場合もあります。
なお、効果の発現には時間がかかり(およそ3ヶ月程度)、治療開始直後のシーズンには十分な効果は期待できません。
(参考:日本鼻科学会会誌)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrhi/53/4/53_579/_pdf/-char/ja
スギ花粉症で、12歳以上65歳未満の方。
※薬剤としては5歳以上を対象としており適応年齢の上限はございませんが、原則として自分で管理し、投薬できること。投薬の意味、副作用などの内容を十分理解できることが重要です。
スギ花粉の飛散時期を避けるため、5月下旬から12月中旬に開始します。
3年間継続していただきます。治療効果が不十分な場合は延長する場合もあります。
ダニアレルギーで、12歳以上65歳未満の方。
※薬剤としては5歳以上を対象としており適応年齢の上限はございませんが、原則として自分で管理し、投薬できること。投薬の意味、副作用などの内容を十分理解できることが重要です。
いつからでも始められます。しかし、寒くなり始める9~10月ごろはダニ抗原が増えるといわれているため、避ける場合もあります。
3年間継続していただきます。治療効果が不十分な場合は延長する場合もあります。
当院では数例の患者様が同時に治療を行っております。
同時と言っても同じ時期に治療を開始するのではなく、それぞれの免疫療法は開始時期をずらして行います。例えば、スギ花粉症の舌下免疫を6月に開始したとすると、ダニアレルギーの舌下免疫は数か月から1年程度ずらして行われます。
内服は同時に口の中に入れることはせず、すくなくとも10分程度間隔をあけて投薬する必要があります。
なお、アレルギー抗原をより多くするため、副作用が発生するリスクは、「スギだけ」「ダニだけ」の場合よりも増えると考えられるため、現在のところ製薬会社からは強く推奨はされていません。しかし、現在のところ同時に使用することで重篤な副作用が出たことは当院ではありません。また、学会の報告でも適正な使用であれば、リスクはあまり高くないと考えられています。
とはいえ同時治療はご希望のすべての患者様に行えるものではなく、治療開始前の検査で適応が認められ、適切な使用ができると判断した場合にのみ行います。
① 初回診察
アレルゲンの確定、合併症の有無を確認するため、血液検査・レントゲン・CTなどを実施します。
② 舌下免疫療法開始(初回投与)
初回投与は予約外来で医師の監督のもとで行います。投与後、副作用の有無を診るため30分以上はクリニックにて安静待機が必要となります。
③ 2回目以降投与
2回目以降はご自宅で、ご自身で薬の投与をしていただきます。1~2週間かけて増量し、その後は症状のない時期も1年を通じて、毎日1日1回の投与が必要です。
④ 定期的な診察
服薬状況や副作用の確認をするため、月1回は定期的に通院していただきます。
アレルゲンを投与することからアレルギー反応を起こすことがあります。まれに、アナフィラキシーという重篤な副反応を生じる場合があります。
副作用の発現を避けるため、服用の前後2時間程度は運動、入浴、飲酒などを控える必要があります。
主な副作用は口内炎、舌の下や口の腫れ、喉のかゆみなどがほとんどです。副作用の発現率はスギ花粉症で約14%、ダニアレルギーで64%ですが、1ヶ月程度で軽減することが多いです。
なお、副作用のリスクが高いため、スギ花粉症の舌下免疫療法はスギ花粉症飛散期には投薬開始できません。
体調不良、喘息発作時、口腔内の傷、休薬期間ができた場合などにはご相談いただく必要があります。
通院の頻度にもよりますが、月1回の再診料を含めて年間30,000円程度です。
※2022年よりアレルギー性鼻炎免疫療法管理加算をご負担いただくようになりました。初回の免疫療法管理に850円程度、月1回の診察料に80円/回程度(3割負担)で加算されます。
スギ・ダニの同時治療の場合は、診察料、処方箋料等は変わりませんが、スギ舌下錠とダニ舌下錠の薬価が加わりますので、費用は年間45,000円程度になります。同時治療をご希望の方はご確認ください。
舌下免疫療法ではアレルギー原を体内に取り込むため、急激なアレルギー反応を起こす可能性があります。ショック・アナフィラキシーに注意が必要です。
内服開始早期には次のような症状がみられる場合があります。
上記症状は早期にはしばしば見られますが、次第に消失します。
ショック、アナフィラキシーなど重篤な症状が出現する兆候は以下のような症状です。こうした前兆がある場合は、迷わず救急車を呼んでいただくように指示しております。
皮膚の症状
じんま疹、掻痒感、紅斑、皮膚の発赤などの全身的な皮膚症状(医薬品の投与数分から通常は30分以内に、初発症状のことが多い)
呼吸器の症状
声がかれる、喉の掻痒感、胸のしめつけ感、咳、呼吸困難、呼吸の音がゼーゼー・ヒューヒューする、チアノーゼなど
消化器の症状
持続する胃痛、持続する嘔吐など
循環器の症状
頻脈、不整脈、血圧低下など
眼の症状
視覚異常、視野の狭窄など
神経の症状
不安、恐怖感、意識の混濁など
舌下免疫療法を開始される方には以下のことをご確認の上、ご相談ください。
ヒノキの花粉症でも効果はありますか?
スギの花粉はヒノキの花粉と似ていますが、厳密にいえば違うアレルゲンですので効果は薄いと考えます。ヒノキ花粉は飛ぶ量が少なかったり、多く飛ぶ時期が短い場合が多いためアレルギー薬の投与で乗り切れる場合が多いです。
アレルギーによる喘息やせきにも効果がありますか?
気管支喘息の患者様に対しては慎重投与、もしくは禁忌です。発作などが頻繁におこる重症例には投薬できません。軽症の患者様に対しては投薬できる可能性はございますが、呼吸機能を精査の上投薬が必要です。
アトピー性皮膚炎がありますが、舌下免疫療法を受けることができますか?
アトピー性皮膚炎をお持ちの方でも舌下免疫療法を行うことは可能です。一時的に悪化する場合がございますので、治療開始後に症状が悪くなられた場合は医師にご相談ください。また、アトピー性皮膚炎に対しての舌下免疫療法は皮膚科へご相談ください。
3年間の治療が終わったあとは、もう治療は必要ないでしょうか?
原則3年間、毎日投薬が必要です。3年間の投薬が終了した後でも免疫寛容が弱くなり、また抗原に対して体が過剰反応を起こす可能性がありますが、今のところ治療後数年間は症状の改善が得られています。また飛散する花粉の量や、ハウスダストの量によっても変化します。
治療を始めてどのくらいで効果がでてきますか?
スギ花粉症の患者様は投薬開始から初めての花粉シーズンには、症状の改善は見込めない可能性が高いです。翌シーズンからは症状の軽減が見込める患者様が多いです。ミティキュア投薬後は半年程度で効果がでてきます。個人差はありますが、くしゃみや鼻水の量の減少が期待できます。
治療を途中で中断した場合はどうなりますか?
1週間程度の中断であれば、そのままの維持量で再開します。数か月程度開いてしまった場合は、再度、低い濃度の錠剤から開始し、高い濃度に切り替えていきます。内服を中断する場合は必ず医師に相談してください。
トリイ薬品とシオノギで薬の違いはありますか?
治療効果、濃度に違いはありませんが、剤型などにやや違いがあります。当院ではトリイ薬品の処方が多いですが、シオノギの方がやや舌の下でとけにくいとの報告もあります。